五十嵐一

イスラム研究者。1991年7月、何者かによって殺害される。
サルマン・ラシュディ悪魔の詩』の日本語版翻訳者であったため、ホメイニ師によるラシュディ死刑宣告に関連した暗殺では、との見方が強かったが真相はどうだったのか。結局、明らかにされないまま14年が過ぎようとしている。
五十嵐先生の研究者としての力量や業績の評価についてはよく知らない。ただ、遅まきながらイスラム文化に対する関心が首をもたげてきた今はなおさら、もしも五十嵐先生が生きていたならば、と悔やまれるのだ。イスラムの音楽にも造詣の深かった方だという。先日も何故かふとスーフィーの音楽を回想したりしてたのだが、今になって私たちが喪失したものの途方も無い大きさをあらためて考える。
イスラム世界の側もまことに力強い理解者を失ってしまったのだ。

『知の連鎖 ギリシャイスラムの饗宴』(五十嵐一、勁草書坊)。五十嵐一と聞いてピンとくるヒト、いる?いつぞや、あの故ホメイニ師が、「悪魔の詩」という本の著者と訳者のクビに賞金を掛けたって話があったでしょ。その日本語版の訳者です。「悪魔の詩」の原著者は、パキスタン系イギリス人、名誉あるブッカー賞作家でもあるサルマン・ラシュディ。五十嵐氏は、はじめ大学で数学を専攻した理系のヒトなんだけど、院はたしか英文学か比較文学だったはず。そしてイスラム圏の科学史にとても精通したヒトでもある。四方田犬彦がたしか、一風変わったいわゆる天才肌の人であると評してた。で、古書店でこの本の著者名を目にしたとき、ウッ、こんな本を書いていたのか、、と、びっくりして買い求めたもの。古代ギリシャの自然科学の英知が、いかに豊かにイスラム世界に流れ込み、それを育んだかが分ろうというもの。五十嵐氏は、実は、「悪魔の詩」を訳して程無くして謎の死を遂げた。他殺が濃厚らしいが犯人はたしか捕まっていないはず。ホメイニの命によって死がもたらされたのだろうか。しかし、非常に残念である。この「知の連鎖」の序文だけを見ても、いかにあの時代、オイルショック以降の原理主義台頭、テロ事件が相次いでいた頃に、これだけイスラム世界に深い理解を示していて、かつ、それを「西側」陣営の日本の読者に伝えようとする意志を持っていたかを、もしホメイニが知っていたらと、思う。こんな訳者は、まずもって良き理解者であることを想起

上記は検索してて見つけたfigaro77さんの日記、http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/4779/diary41.htmlより引用(ボールド強調部分は私による)。
本当にそう。ルネサンス・マンというか、天才ってこういう人のことなんだな、と思っている。研究者としての厳しさは常に保持しつつも、お茶目で笑いに溢れた人、という印象。やはりその死に対しては惜しい、残念、としか言いようが無い。