ココアとくればポワロ、と思うのは私だけか

立派な髭をたくわえた、このちっちゃなベルギー人探偵の愛する飲み物がココアだった。ベルギーにしろオランダにしろベネルクスってチョコレートが有名だし、老若男女を問わず、チョコレートって愛されてるんだろう。ヘラクレスという名に似合わず、にちゃにちゃした甘い液体を嬉しそうにすする小男はイギリス人の目には奇異に映ったらしいが(真っ当な紳士ならそんなもの飲むわけない!ってか)、うーん、すこぶる可愛いじゃないか。ちなみにシューヴァル/ヴァールーのシリーズに登場するストックホルムの無骨な刑事、グンヴァルト・ラーソンも私は贔屓にしてるんだが、ラーソンは紅茶党らしくラプサン・スーチョンを愛飲する男だったりする。んもー、なんというか、こういうおっさん達が日本なんかでは専ら女子の好みの範疇とされるようなものを嗜好し、たしなんでるっての、ものすごく可愛いと思うんだけど?

ま、ポワロとラーソンでは作品の雰囲気や背景も全然違うんだが(そもそもラーソンは主役じゃないし)。ポワロはやっぱり有閑階級御用達の探偵であって、生活のために頑張って働く必要の無い身分なのだ。クリスティ作品を今の時代に読んでも身の総毛立つような恐ろしさは感じられないし、所詮そんな要素は皆無である。一応は殺人事件という味付けをしてあるとはいえ、ジェントリィとか中流および上流階級の人々の田園生活や社交生活を描いたのどかな作品って匂いが強い。それなりに楽しいけれど、ホントのどかだのー、と思う。現代ミステリは猟奇の度合いも甚だしく、そのグロいこと、暴君ネロも顔色を失うだろうよ、ってのが多いからなおさらだ。その点ではシューヴァル/ヴァールーのものですら、1970年代の作品だから今ではもうマイルド風味なのかもしれん。いや、だからといって猟奇的でドギツイほうが刺激があって面白いということではないんだが、クリスティについては人物も陰影の付け方が浅く類型的で、昨今の作品とは比べものにならない。ミステリ今昔って感じで、なんだかしみじみしてしまう。でもクリスティは腐ってもクリスティであって、もうそんなのどうでもよくなってしまうんであって、私は決して嫌いじゃない。それどころかクイン氏とかパーカー・パインとかの短篇なんて大好きだ。ポワロものなら、それこそココアを飲みながら読むのもまた一興かも。