アフガン攻撃っていっても…

私も日頃愛読させてもらってる「町山智浩アメリカ日記」(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/)。
巷で最も熱い人気サイトの一つだと思われるが、ここ何日かはマイケル・ムーアの『華氏911』の話題で、いつにも増して町山節が冴えわたり、読者の反響もすごいみたい。

この町山さんとこで知ったんだけど、本来の狙いからはずれてる「イラク」攻撃は即刻やめろってのが、ムーアのメッセージらしい。で、「とにかく早いうちにタリバンアルカイダビンラディンを全力を尽くして徹底的に壊滅させ」るための「アフガン攻撃」には賛成で、「テロが起こったとき、さっさとアフガンを全力で攻撃し、ビンラディンを拘束すべきだった」というのが、ムーアの立場だったのか。
でもなー、アフガンでもきっとテロリストとそうじゃない人、見分けるの難しいんじゃないか。いや、私はかの地の情勢がどんなだか知らないし、ましてや国際政治とかの事情通でもないので、完全なる個人的な想像や印象で語っているにすぎないが、バリバリのテロリストと普通の人、それにモスリムのボランティアである義勇兵とかって関係は、恐らくややこしい感じで互いに絡まってる部分も多くて、普段は穏やかで敬虔な人が、ある時は武器を手にゲリラ(アメリカ的に見れば全てテロリストと称されるんだろう)として抗戦する、という状況も当然あるだろう。とすると、「テロ撲滅」を標榜した大々的な軍事掃討作戦みたいなのって、正当で有効な対策なのか、ホントに?と、懐疑的になってしまう。
いくらピンポイントで狙ったとしても、きっとそのとばっちりを受けて犠牲になる人も出てくるだろう。多少の犠牲はやむをえない、っていう論理もあるかもしれないが、その言葉、実際巻き添えになった人やその家族に向かって言えるのか、と思ってしまうんだが。私のこういう考えは青臭いのかも、と自覚しつつ、でも目をつぶれるものではない。
イスラム教は現在、最も救済力の強い宗教だ」と、かつて耳にしたことがある。これは学生時代、ある授業での会話の中で出てきた言葉で、本題とは関係なかったため、さらっとそのまま流されてしまったが、なぜか私の記憶にひっかかって、以来ことあるごとに思い出す。
イスラム教では、同じ神を信じる者同士の連帯感や同胞愛も強いようだし、相互扶助の精神も発達してるらしく、モスリムでない異国人であってもシリアなんか旅してると、そのホスピタリティに感動する場合が多いという(これが女性だと、セクハラもあって大変そうだが)。イスラムの宗教指導者が生活のあらゆる面で人々の支柱となってるし。犠牲祭で肉を貧しい者にふるまう、というのだって、今じゃ形骸化してるかもしれないが、もともとは相互扶助精神から発してるわけだろうし。それは政教分離や近代西洋的民主主義(アメリカなんかはこれこそ唯一絶対正しい在り方と考えてるのかもしれん)とは相容れない形態であるかもしれないが、伝統的にこれまでそうした在り様の下で社会が機能してきたという事実は大きい。
実際、アフガンにも各地から志願したモスリム義勇兵が派遣されていた、って先日NHKでやってたなー。旧ユーゴのモスリム地域にも派遣されてずっと活動を続けてるらしく、これが救済力が強い、といわれる所以の一端かも、と思った。文化とか民族とかはペルシャだの、アラブだの、アフリカだの、いろいろあっても、モスリムはコーランの言葉、アラビア語を共通語として(アンミーヤの違いはあれど、フスハー公用語だし)基本的につながっているので、互いのコミュニケーションも取りやすいのかもしれない。
こうしたことを考えると、アフガン攻撃ってのは、たとえ「悪い奴=テロリストだけをとっちめる」という目的で行われるのだとしても、どうなんだか。結局は普通の人も暮らす土地が攻撃にさらされるわけで、世界中のモスリム感情を刺激して泥沼化し、人々の被害甚大ってことを繰り返すだけじゃないのか。
私はイスラム圏はエジプトとトルコしか知らず(しかも単なる旅行)、一旅行者としてつかの間、現地の人たちと触れ合っただけでの印象なので、的を得たものではないことを承知の上であえて言わせてもらうと、少なくともこの地域の人々は善きにつけ悪しきにつけ、一筋縄ではいかなさそう。「したたか」とか「タフ」っていうのは、こういうことなのか、とまざまざと見せつけられ、頭に来てキレることも多々あったし、日本人以上に本音と建前があるというか、奥が深いというか、地縁血縁含めて、一見の外人にはとてもじゃないけどわからない複雑な人間関係とか、力関係とかも控えてそうだなー、と感じた。ゆえにテロリストを輩出する背景とか土壌とか、こみいった事情を理解しようとせず、単純に武力による「テロリスト撲滅」という形で白黒つけるのは、いずこにおいても難しい仕事だとはいえども、とりわけイスラム圏では難儀なことのように思う。だって、そもそもアメリカ政府も軍部も、イスラムのこと、わかってないじゃん。私もわかってないけど。だからこそ、本当に心有る、賢くて誠実な人たちに示唆を受けて考えたい。加えて人類学者とか宗教学者とか、いわゆるアカデミックな世界の住人たちだって、今こそ出番だろ、ここで役に立たないでどうするよ。求められるのは、911の報復みたいな軍事攻撃、などというのではない解決策。当事国だけじゃなく、それこそ世界中の叡智を集めて練りあげられた抜本的対策を実行に移す、っていうのは、あまりに理想的、幻想的な考えだろうか。現実的ではないと一笑に付されるだろうか。



ちなみに、イラクフセインの独裁が悪しき影響も及ぼしたとはいえ、インフラなども整備され、発展した、一応は恵まれた国である(だった)のだ(しかるべき援助があれば、復興能力は潜在的に備えていると思う)。翻ってアフガンはどうか。以下のサイトが参考になるかもしれない。
「オバハンからの気まぐれ通信」 (http://www.pat.hi-ho.ne.jp/nippagrp/obahan.htm)。
特にここ(http://www.pat.hi-ho.ne.jp/nippagrp/tushin14.htm)を以前に読んでからというもの、アフガン攻撃して結局どうなったの、という思いが強く。ムーアにも見て欲しいくらいだ、これ。
ブッシュや小泉もオバハンさんに話を聞きにいってみたらいいのに。