一見マフィアのような風体

「心配することはない、大丈夫だから。ほら、笑って。笑顔だ、笑顔」という言葉をかけられだけで、すっと憑き物が取れたかのように疑心暗鬼の塊が溶けていき、フニャフニャと安心感で満たされる。そして言われた通り、本当に笑い声をあげてしまう私って、かえすがえすも単細胞なオメデタイ人間なんだろう。でもって、うまく飼い馴らされてるだけのことだったりするんだろう。けど、もう今更そんなことはどうでもいいのだ。昨晩そう悟るに至った。
こちらはずいぶんとひどい対応もしてきたってのに、いつも我慢強く、親切な態度で接してきてくれたこと、その懐の広さには素直に感謝する。稀有な人だ。でもかつてはその優しさとかが何故か癪にさわり、大人気ない振る舞いを繰り返したものだ。あの頃、見捨てないでくれて良かった、しみじみ有り難い。時には険悪な事態に発展しそうなこともあったけど、向こうが数段上等にできてるために、こちらがどうけしかけても、それ以上は悪化しようがないのだった。私は一人っ子という生い立ちのためか、兄弟姉妹とかいう間柄の感覚がイマイチつかめないんだが、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。
やたらと愛想のいい、それだけに実際は腹の中で何考えてんだかわからない、なんだか得体の知れない奴、と色眼鏡で見ていたりもしていたが、今後はすっぱり考えをあらためることにする。今まで会ったことないくらい、器の大きい人だったのだ、と。
ただ、この人を見てると、もの悲しいような切ないような複雑な気分になるのは、相変わらずのことであって。もっと違う人生もあったろう、と思ってしまうから。まったく人生とはしばしば不条理なものである、と嘆息してみたところで、詮無いこととはわかっているんだが。


しかし、厚顔無恥かつ恩知らずにも、一つだけ注文を出すとするならば。
あまりロマンティックなこと考えるのはやめてほしい。どこをどう見たらそんな考えが浮かぶんだ。全然イメージ違うってば。