予感

学生時代はバックパッカーとして海外をちょくちょく旅していた。割合に長期(2ヶ月とか3ヶ月とか*1)の旅に出ることもあったが、いつも一人旅だった。というのも、皆それぞれ予定や都合があったり、各自行きたい国や地域がばらばらでまとまらなかったり、なかなかに道連れを得るのも難しかったのだ。一人旅が特に好きだったわけでもなし、ましてや豪胆なんていうのには程遠いトホホな奴だったのだが、ほかに選択肢がなく単身で出かけていたのである。
実際の旅の途にあっては、ああ、一人って気楽でいいなー、と一人旅の醍醐味を多少なりとも齧った気になってそれなりに楽しんでいたから、意外と性に合ってたのかもしれない。現地に友人がいる時はそこに泊まらせてもらい、途中で知人らと落ち合って合流、なんてのもアリだったので、まるっきり徹頭徹尾一人旅、というものばかりではなかったが。

そんなへなちょこバックパッカーをしてた時に、オットーと出会った。第一印象は、といっても、そのゴールデン・リトリーバーを彷彿とさせる容貌以外、あまり記憶に無かったりするが、彼のほうはどういうわけだか最初から私をえらく気に入ってくれたらしく、その後もなにやかやと良くしてもらった。当時ある悩みを抱え悶々としていた、というよりも、おそらく殺伐としていたに違いない私は、彼によって大いに救われた気分になり、以来その恩義が彼に対する感情の核となっている。
だから、純粋に恋心とか愛情とかから発しているものでない、というところがそもそもの問題なのかもしれない。
彼の背負ってきているものの大きさを思うと、身が竦む。とともに讃嘆する気持ちも湧く。よくぞ、あのようなハランバンジョーを受けとめて掻い潜ってきたものだ。彼の生い立ちや家庭環境を知るにつけ、人生に対して拗ねたり卑屈になったりしていないのは、この人の魂がよほどのものだったからか、と畏敬にも似た気持ちになる。
恋人として付き合うぶんには、これまでと同様、楽しくやって行けるだろう。しかし、人生の侶伴として道程を共に歩むには恐ろしい相手である、との思いは変わりなく。
私は結局いつかはオットーを泣かせることになるのではないだろうか。予感めいたものが時折疼く。

*1:世界には数年という単位で旅してる猛者どもが闊歩してるんで、これくらいの期間なら「長期」と呼ばないと思う。多分。